IB卒業生・留学経験者の声

IB・留学経験が培う「問いを立てる力」:日本の研究とキャリアで自己を確立する探求の視点

Tags: IB, 留学, キャリア形成, 大学院生活, 探究学習

はじめに:経験を活かす「問い」の価値

国際バカロレア(IB)プログラムの修了や海外での留学経験をお持ちの皆様は、自らの内に独自の視点と実践的なスキルを培ってこられたことと存じます。しかし、それらの貴重な経験を日本の大学院での研究やキャリア形成において具体的にどのように活かしていくべきか、模索されている方も少なくないのではないでしょうか。

本稿では、IBプログラムや留学生活を通じて育まれる最も重要な能力の一つである「問いを立てる力」に焦点を当てます。この力が、日本の教育・研究環境や企業文化において、いかに独自の価値を生み出し、皆様自身の探求と自己確立の道筋を照らすかについて考察してまいります。

IBプログラムが育む「問いを立てる力」

IBプログラム、特にディプロマプログラム(DP)は、単なる知識の習得に留まらず、学習者自身が主体的に知識を構築するプロセスを重視しています。例えば、Extended Essay(EE)では、生徒は自ら研究テーマを設定し、独立して探求を進めます。また、Theory of Knowledge(TOK)では、知識の本質やその獲得方法について批判的に考察します。

これらのプロセスを通じて、IB生は「なぜそうなのか」「他にどのような見方があるのか」といった根本的な問いを立てる習慣を身につけます。既成概念に囚われず、多角的な視点から物事を捉え、自らの思考で新たな意味を見出す能力が養われるのです。これは、日本の受動的な学習環境では得られにくい、極めて能動的な学びの姿勢と言えるでしょう。

留学経験が深化させる「問いを立てる力」

海外での留学経験は、この「問いを立てる力」をさらに深化させます。異文化の中で生活し、異なる教育システムや価値観に触れることは、これまでの自身の常識や前提を揺さぶる機会に満ちています。

例えば、留学中に直面する言語や文化の壁、あるいは多様なバックグラウンドを持つ友人との議論は、無意識のうちに持っていた固定観念を認識させ、「自分は何を知っていて、何を知らないのか」「なぜ彼らはそのように考えるのか」といった本質的な問いを投げかけることを促します。この経験は、単に異文化適応力を高めるだけでなく、グローバルな視点から物事を批判的に捉え、自らの問いを再構築する能力を飛躍的に向上させます。

日本の研究とキャリアにおける「問いを立てる力」の活用

では、IBや留学で培われた「問いを立てる力」は、日本の大学院生活やキャリア形成においてどのように活かされるのでしょうか。

大学研究における独自の貢献

日本の大学院では、多くの場合、既存の研究テーマや手法に基づいて研究を進めることが求められます。しかし、IB卒業生や留学経験者は、この環境において独自の強みを発揮することが可能です。

例えば、あるIB卒業生が日本の大学院に進学した際、先行研究のレビューにおいて、単に内容を理解するだけでなく、「この研究の前提は何か」「別の角度から考察すれば何が見えるか」といった問いを常に持ち続けました。これにより、指導教員が予想もしなかった新たな研究の切り口や、国際的な視点を取り入れた独創的な仮説を導き出すことに成功し、研究室の議論を活性化させました。

このような「問いを立てる力」は、既存の枠組みに安住せず、自ら課題を発見し、解決策を探求する能動的な研究姿勢へと繋がります。

キャリア形成における変革への寄与

現代社会は変化が激しく、既存の知識やスキルだけでは対応しきれない課題が次々と生まれています。このような状況下で企業や組織が求めるのは、単に与えられた仕事をこなすだけでなく、現状を批判的に分析し、新たな価値を創造できる人材です。

留学経験を持つある社会人インターン生は、入社した企業での既存の営業プロセスに対し、「なぜこの手順なのか」「顧客は本当にこれを求めているのか」という問いを繰り返し投げかけました。最初は戸惑いの声もありましたが、彼の問いから生まれた議論は、部署全体で業務プロセスを根本から見直すきっかけとなり、最終的には顧客満足度向上と業務効率化に繋がる画期的な改善案が採用されました。

このように、「問いを立てる力」は、ビジネスにおける潜在的な課題や未開拓の機会を見出し、組織に変革をもたらす重要な原動力となります。

自己確立への探求の視点

IBや留学経験を通じて培われる「問いを立てる力」は、単なる学術的・職業的なスキルに留まらず、自己のアイデンティティや価値観を深く探求するための強力なツールでもあります。自らに問いを立てることで、何が自身の真の関心事であるのか、社会にどのように貢献したいのか、といった自己の内面と向き合うことができます。

この継続的な自己探求のプロセスこそが、多様な経験を持つ皆様が日本の環境で自己を確立し、独自のキャリアパスを切り拓いていく上での羅針盤となるはずです。

経験を共有し、新たな問いを育むコミュニティへ

皆様がこれまでに培ってこられた「問いを立てる力」は、他者との対話や経験の共有を通じてさらに磨き上げられます。このコミュニティが、同じようなバックグラウンドを持つ仲間と繋がり、互いの経験から新たな問いを見出し、共に学び合う場となることを願っております。皆様の貴重な知見が、次世代のIB生や留学を志す後輩たちの未来を照らす光となることでしょう。